自身が事故や病気で亡くなってしまったとき、死亡退職金があれば、残された遺族の生活を少しでも楽にできるかもしれません。しかし、「死亡退職金」について詳しくご存知の方は少ないでしょう。
そこで本コラムでは、「死亡退職金」の制度や税金などについて、簡単に解説していきます。生命保険や相続について考える際にも役に立つ知識ですので、しっかり理解していきましょう!
このページで分かること
死亡退職金とは
従業員の退職時に受け取ることのできる退職金には、退職時に生存している際に支払われる「生存退職金」と、死亡によって退職した際に支払われる「死亡退職金」があり、それぞれ税金の掛かり方が異なります。
「死亡退職金」とは、在職中の従業員が死亡した場合、本来従業員本人が受け取るはずだった退職金を、遺族が受け取ることのできる退職金制度です。
「死亡退職金」はすべての企業で受け取ることができるのではなく、死亡退職金についての定めがある企業で受け取ることができます。また死亡退職金とは別に「死亡弔慰金」として一定の金額を支給する企業もあります。
また、退職金の支給方法もさまざまで、退職一時金や退職後に分割して年金として支払う企業年金の形で退職金が支給される場合もあります。
死亡退職金と同等の仕組みとしては、企業型確定拠出年金では「死亡一時金」、厚生年金基金や確定給付企業年金では「遺族給付金」などが挙げられ、それぞれの年金の加入者が死亡した場合に、その遺族が給付金を受け取ることができます。
死亡退職金の受給条件
死亡退職金の金額や対象者の条件も、各企業の就業規則によって異なります。
死亡退職金の支給金額は、個人の職種や勤務年数、功績によって算出されることが多く、算出方法も企業によって異なります。
死亡退職金の受取人についても、基本的には会社の就業規則に定められており、もし受取人の規定がない場合には、民法に規定される法定相続人が受け取ることとなります(法定相続人における相続の優先順位は、配偶者→子→親や祖父母など→兄弟姉妹の順)。
死亡退職金と税金
死亡退職金は、支給される金額が死亡後3年以内に確定した場合、「みなし相続財産」として相続税の課税対象になります。ただし、相続人が受け取る死亡退職金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が設けられており、すべての金額が課税対象となるわけではありません。
たとえば、3人(配偶者と子2人の場合など)の法定相続人が合計3,000万円の死亡退職金を受け取った場合、非課税限度額を超えた1,500万円が相続税の課税対象となります。
死亡退職金:3,000万円
非課税金額:500万円×3人=1,500万円
課税対象額:3,000万円―1,500万円=1,500万円
また、企業が亡くなった従業員に対する功労や遺族のために支払うものが「死亡弔慰金」であり、「死亡退職金」とは税務上区別して取り扱われます。弔慰金も、算出方法や対象者は企業によって異なり、一定額での支給や役職、勤務年数に応じて変動する場合もあります。
従業員の死亡により、遺族に贈られる香典、花輪代、弔慰金などは、一般的な社会慣行に基づいているものであり、原則として相続税は課されません。弔慰金を受け取った時の税金の取り扱いは、業務上の死亡か業務外の死亡かで非課税限度枠が異なります。
業務上死亡の場合:死亡当時における最終報酬月額×36ヶ月
業務外死亡の場合:死亡当時における最終報酬月額×6ヶ月
たとえば、死亡当時の最終報酬月額が40万円で、業務上での死亡だった場合、1,440万円までは弔慰金を非課税で受け取ることができます。
40万円×36ヶ月=1,440万円
同じ死亡による給付金でも、死亡退職金と弔慰金では税制上の扱いが異なるので注意が必要です。
さらに、死亡退職金は基本的に「みなし相続財産」となるため、相続税の対象となりますが、死亡後3年を経過して死亡退職金の支給額が確定した場合は所得税の対象となり、受取人の一時所得として課税されることにも注意が必要です。
死亡退職金は遺産分割の対象?
勤務先の就業規則に基づいて死亡退職金の受取人を指定していれば,その受取人固有の財産となり,相続財産には含まれません。
仮に受取人が指定されていない場合でも,就業規則において特定の立場にある人が受取人となる旨の規定があれば,死亡退職金はその受取人固有の財産となり,やはり相続財産には含まれません。
ただし,就業規則に受取人を指定できる旨の規定や,指定をしなかった場合に誰が受取人となるのかについての規定もないという場合には,遺産分割の対象となり、相続人全員がそれぞれの相続分に応じて死亡退職金の請求権を取得できることになります。
まとめ
退職金制度は、企業によって制度導入の有無から制度の種類、金額の算出方法など、多種多様です。まずは就業規則や社内規定、または人事部や総務部などの担当部署で退職金について確認してみてください。
死亡退職金の有無は、生命保険の金額や遺産分割の仕方などを左右する重要な要素となるので、現在就業中の方のみならず、これから就職や転職を考えている方も、その企業の賃金規程について意識しておくことをおすすめします。
※2022年7月1日時点の法律を基準としています